「駄目。雅と連絡つかない。スマホも解約してるみたいだし、アパートも引っ越したあと」
日当たりのいいラウンジで、友麻は向かい側に座った璃南にそう告げる。
ぐったりと、上半身をテーブルに投げ出して溜息。
「なんだったんだろう、あれ。嘘みたいにいなくなった。こんなことってある!? 失踪だよ失踪!!」
はああと再度息を鳴らしてカフェオレで喉を湿らすと、友麻はミルクティーをすすっている璃南をじっと見据える。
「わかってたって顔だね」
「わかってたよ。『司祭』を名乗る人間にはよくあること。急に消える。跡形もない。忘れた頃に、どっかにまた現れる」
璃南は優雅にカップを置く。
ひたと、友麻の曇った顔を眺めやり。
「……今度から、おかしいなって思った相手には近付かないこと。誰が『司祭』かなんてわからない。気を付けてても仕方ないこともあるけど、またおかしいなって思ったら連絡して」
「うん。あの子、悪い子じゃないと思ったんだけどなあ。そんなに派手っぽくない割りには人脈あって、乗せられてるうちに楽しくなってきちゃって」
ごろごろ。
友麻はテーブルに上半身を転げさせる。
「……誰も知らない、私たちだけの秘密を知ってるって、嬉しくなってきちゃって。今考えればおかしいんだけど、その時はテンション上がって気付けなくて」
ぼそぼそ打ち明ける友麻に、璃南は穏やかに視線をやる。
哀れんでいるのか、仕方ないと諦め顔なのか。
「普通の人間は、私たちみたいな人外の本性なんかに関わらないで生きていく。開示されるのは、何かやむを得ない時とか。そうでないなら、裏がある。わかった?」
ふと。
璃南にむかってうなずいた友麻が、じっと視線を留める。
「なに?」
「うん。あのさ。私は、璃南ちゃんのこと覚えていていいよね?」
「これが『やむを得ないこと』。友麻ちゃんの身を護るためにも覚えていた方がいい。ああ、サークルは解散した方がいいけどね」
「どことも連絡つかなくなっちゃったしなあ。しばらく落ち着きたい」
相変らず、友麻はごろごろのたうち回りながら。
「ね、二人でどっか行かない?」
「親父が遊園地の入場券もらってきてたけど、それでいい?」
いきなりの璃南の返しに、友麻は一瞬びっくりし。
満面の笑顔でうなずいたのだった。