8-26 真相暴露とこれから

「分かってるにゅう……一番、この中で失敗して、んで、一番、責任があるのは、わたいだにゅう……」

 

 ピリエミニエ神が、ふにょふにょした声で応じた。

 いつの間にかどこぞのソシャゲのような萌え衣装を着ているが、雰囲気があまりに「フツーぽい」ので、まるで似合っていない。

 

「そもそも、ここまでTRPGのキャンペーンをこじらせたのは、どう考えても、GMたるわたいのせいだにゅう……だから、わたいは新しく『仲直りキャンペーン』をスタートさせたんだにゅう……」

 

「ピリエミニエ神は言われた。このままでは、皆、ゲームを投げ出してしまうだろう、と」

 

 そう後を付け足したのは、イティリケルリテだった。

 

「そうなる前に、もう一度、我ら六大神同士……加えてその被創造物である神聖六種族同士が絆を結ぶためのシナリオを用意する、と」

 

「我ら六大神同士なら、まだ話は簡単なのです。顔を突き合わせて話し合い、互いに謝って、過去のことは水に流して蒸し返さない、あらゆる形で他の神に危害を加えることを一切しないと、誓えばいいのです」

 

 個人のことですからね、と更に付け足したのはビナトヒラート。

 

「しかし、膨大な数に上る神聖六種族同士は、そうも参りません。非常に複雑な話になってしまいます」

 

「彼らの間には、根強く多種族への忌避感が残ってしまってる。分かるだろう? 君たちだって」

 

 はぁあ、と重苦しく――にしてもどこか軽薄だが――アーティニフルがこぼした。

 

「ちょっと前まで、君たちだって、他種族同士が混血するって、かなりぎょっとすることだったんじゃない? そうだったろう? でも、今はどう? 真面目に、異種族の恋人との将来、考えてたりしない?」

 

 そう言われて、六英雄たちの中の恋人同士が互いに顔を見合わせた。

 

「これは神々だけが考えを変えるのでは無理だって、あたしたちは判断したの」

 

 鈴の鳴るような声で、フサシェリエが更に言葉を継ぐ。

 

「今までのように|世界を創造する神聖遊戯(TRPG)に託そう、六種族の中から一人ずつ代表を選び出し、彼らに種族を超えた友情や、愛情が存在することを証明させよう。そういう意図で選ばれたのが、あなたたち」

 

 ああ――そういうことか。

 

 納得の空気が、英雄たちの間に広がった。

 

「苦労したようだな。そなたらの距離を効率的に縮めるのは」

 

 朗らかと言って良いほどに、バイドレルは笑った。

 

「それぞれの過去に関わる、そなたらが元々属していた世界から拾い上げた歪んだ魂を、魔物の形でそなたらにぶつける。心の秘密に触れて、そなたら同士の心理的距離が縮まったであろう? 苦しかったやも知れぬが、それが狙いだ」

 

 あれは、そういうことか、とオディラギアスは口の中で呟いていた。

 すると、自分は。

 

「レルシェント、あなたがきっかけに選ばれた存在なのです」

 

 オルストゥーラは、静かに微笑んだ。

 

「あなたの冒険心、勇気、知恵、探求心。それらは全て、この聖なるシナリオを始めるのに必要なものだったのです。あなたを起点(トリガー)にこのシナリオは動き出しました。あなたが『全知の石板』に惹きつけられたのも、結局はこのためです」

 

 そう言えば、とレルシェントは思い返す。

「全知の石板」自体は、結局どうなったのだろう。

 まさか、単なる「エサ」で存在しない訳では……

 

「ああ、そんなに不安がらなくても平気ですよ?」

 

 くすくすっと、オルストゥーラが笑う。

 

「さ、ようやくあなたにこれをお渡ししなければなりませんね?」

 

 ふっと、オルストゥーラの手の中に、古めかしい本くらいの大きさの、エメラルドらしい石でできた石板が現れた。

 

「さあ」

 

 オルストゥーラがかぐわしい風と共に、レルシェントの前に転移してきた。

 

 手渡された石板は、ずっしりと重いが、快い滑らかさがそれを不快に思わせない。

 

「……ありがとうございます、我が女神よ……」

 

 苦労して世界中探したものがこうしてあっさり手に入ると、何とも妙な気分だ。

 予想はしていたが、現実感がない。

 

 そんな彼女を見ながら、オルストゥーラは美しく微笑んだ。

 

「あなたが願っている通り、その石板はあなたばかりでなく、あなたの将来の夫、オディラギアスも助けてくれますよ? 国一つひっくり返して作り直そうというのですから、そのくらいのものがないとね?」

 

 その言葉に誰より驚いたのは、オディラギアス。

 

「……レ、レルシェ……? そなたは、そう思っていてくれたのか……?」

 

 当然、探し始めた頃は、オディラギアスの存在は知らない訳だから、そんな意図はなかったであろう。

 だが、自分がどういうつもりでいるかを、彼女に明らかにした時に……

 

「……王宮なら、こういう財宝があっても、おかしいことはないでしょう?」

 

 ほんのり頬を染めたレルシェントの肩に手を置き、オディラギアスはしばしの間、感動で何も口にできなかった。

 

「さて。これで、『王者の試練』はクリアである、の、じゃが……」

 

 ちょこちょことピリエミニエが近付いてきた。

 

「今後どうするか決めているのかにゅ? おまいらは?」

 

 六人の英雄は、顔を見合わせて。

 互いの中にある想いが一致しているのを、確認したのだった。