天椿姫

○天椿姫(あまつばきひめ)

 

 神楽森城の天守に住まうという、齢1000歳を数える大妖怪。周囲一帯を無条件に従わせ、因果律にも魔力で干渉して改変するという、妖術の大家。純粋な妖術で彼女に匹敵する者は、日本にもほとんどいないとされている。

 妖怪としての姿は、妙齢の美女で、長い黒髪、中世の姫君のような打掛姿である。体の周囲に、星を思わせる発光体が取り巻き、その肉体全体からも、淡い燐光とかぐわしい香りが放たれていて、非常に幽玄で神秘的である。

 元は城のある神楽山の神であり、様々な妖怪を従える。人間社会にも深く根を張っており、土地持ちで不動産収入から莫大な利益を上げるほか、地元と東京で製薬会社を経営したり、様々な店舗のオーナーであったりして、富と影響力は計り知れない。

 人間としての姿は着物のしっとりした美人。見た目は非常に若く(二十代)に見えるが、妖術で見た人間の意識を逸らせ、ごまかしている。滴り落ちるように妖艶であり、蠱惑的であり、強烈なカリスマ性も感じさせる。人間としては、「神楽森椿(かぐらもり・つばき)」を名乗っている。

 性格的には、大妖怪らしく器が大きくそれでいてちょっといたずらぽい。時々、配下の妖怪(場合によっては自分も)に正体を露わにさせて、わざと怖い噂を市中に流し、都市伝説めいたものを発生させて喜んでいる。

 妖怪としての力は、何といっても膨大な妖力に支えられた妖術の数々。広範囲、多人数に影響を与えるようなものから、場を支配するもの、法則を一時的に曲げる、因果律を一部支配するなど、自らの意思を具現化させるような強力なものが多い。

 彼女に対抗できるほどの妖怪はなかなかおらず、かつては今の夫・陀牟羅婆那も追いつめられた。その時の戦いがきっかけで彼とは親しくなったし、当時、人間の新しい支配者となった徳川家から、この地の妖怪としての支配権を許された。

 日本の妖怪のなかでもかなり有力で、人間と妖怪の関係をどうするのかの大妖怪の会議などにも必ず呼ばれる。

 実質上、昔と同様、いまでもこの辺り一帯を支配しており、この街で暮らす者は、人間でも妖怪でも彼女の影響下にある。

 仲のうまくいっていない夫と息子が心配で、何かと仲立ちをしているが、なかなか冷え切った関係は元に戻りそうにない。そんな時、妖怪としての命を与えることになった瑠璃には、息子が変わるきっかけになってくれたように感じ、また妖怪に理解もあることから可愛がっている。