陀牟羅婆那

○陀牟羅婆那(ダムラバナ)

 

 紫王の父で、天椿姫の夫。仏教伝来の頃、ある高僧の護法童子として日本に渡ってきた「阿修羅」一族の一人である。それ以来、時折のブランクはあるものの、様々な法力の高い僧(主に真言の密教僧)の護法童子として、多くの妖怪や邪法師と戦ってきたという、歴戦の猛者である。

 元々の天竺ではアスラ族とデーヴァ族の神々の争いにも参加し、功績をアスラ王にも認められた古強者である。

 妖怪としては、六臂の巨躯、額に紫の金剛石、紫の髪と金色の目、色気のある整った顔立ち。傲慢そうだが、それを補って余りあるほど高貴な印象。抜き身の刀のような総毛だつ気配を漂わせている。仏法の守護神ということもあってか、気位は高く、また自らを律する生真面目な厳しさを持っており、他者に向けられる基準も厳しいが、妻の天椿姫には調子が狂わされることが多い。そして、それをひそかに楽しんでいる。

 人間の顔は、インド出身の神楽森家の入り婿といったところ。くっきりと整った色気ある目鼻立ちはそのままだが、黒髪黒目になる。名乗っている名前は「神楽森陀牟羅(かぐらもり・だむら)」。

 一人息子の紫王に期待しているのだが、その期待が過ぎるあまりに厳しすぎる態度になってしまい、息子との仲は、彼が反抗期に入ったあたりからこじれっぱなしである。人間としての生活では力を持て余し、しかし妖怪としては父親との間の圧倒的な力の差に押しつぶされそうになっている紫王をどうしたものかと案じている。

 息子が十代半ばの幼さで、妻にすると宣言した瑠璃に対する息子の思い入れの深さにいささか感じ入り、また彼女自身が神々や妖怪といったことに造詣が深く、自分たちアスラ族に対してかなり正確に理解していてくれたことで、非常に嬉しく思っている。

 仏教関連の妖怪ばかりか、退魔師を多く擁する真言宗にも顔がきく、人間と妖怪の橋渡しの役もひそかに担っている。