2 村雲璃南は疑う

「ねえ、ねえ、お願い!! あと一人なの!! もう、璃南しか頼る人、いなくてさ!!」

 

 学内のカフェテラスの一角、女子学生が三人陣取っている。

 そのうちの二人が、残る一人に何か頼み込んでいる様子なのが見て取れる。

 頼み込まれている方は、スチームパンク風ないでたちのレトロな美女。

 頼み込んでいる方は、コケティッシュなショートヘアが印象的な華やかな美人と、そして、茶髪の手入れのいいロングヘアの、細身美人である。

 その二人を見ていると、顔立ちも物腰も派手なショートヘアの方がリーダー格らしい。

 

「ううん、でも、私、あんまり合コンとかそういうのは……今、そういう気分じゃないって、言ってあったでしょ?」

 

 璃南と呼ばれたスチームパンクの娘は、やや困惑したように首をかしげる。

 

「わかってる。無理にカップルとかにならなくていいからさ、とにかく、参加するだけしてみて!! サークルも籍だけ置いておいてもらえばいいから!!」

 

 ショートヘアの方が、璃南に更にごり押しする。

 

「小柳さんは、本当に私でいいと思ってるの? 私、大して口も上手くないし気も回さないわよ?」

 

 堂々と璃南と呼ばれた娘が断言するが、小柳と呼ばれた娘の方は全く動じない。

 

「そんなことはいいのよ。璃南ちゃんは美人だもん。いてくれるだけで、男子のテンション上がるから。ね? この小柳友麻(こやなぎゆま)人生始まって以来のピンチなのよ。助けると思って!! ね!?」

 

 友麻と名乗る娘に拝まれ、璃南は小さく溜息をつく。

 もう一押しと見たのか、隣の彼女の友人らしきロングヘアの娘が、更に押す。

 

「本当にいて適当に飲んで食ってくれればいいから。ほんとにいるだけ!! 飲食代が割安!! 本当に!! 頼むよ璃南!!」

 

 ロングヘアの娘の口調からすると、元より璃南と親しかったのはこちららしい。

 

 璃南はしばし考え――やがてうなずく。

 

「今晩コンパあるんでしょ? 今更断っても、雅(みやび)が困るし。とりあえず、参加だけならっていう条件で、いいよ」

 

 雅と呼ばれた娘ばかりか、友麻も顔を輝かせる!!

 

「マジ!? やった、ありがとう!!」

 

「もう、恩に着るよ~、村雲さん!! あ、璃南ちゃんって呼んでいい!?」

 

 やいのやいの。

 やがて彼ら三人の姿はカフェから消え、日当たりのいいキャンバスの向こう、サークル棟に見いだされる。

 

「さーて、参加希望参加希望!! 書類、どっかにあったよね!?」

 

 比較的新しいサークル棟の一室。

「コミュニケーション研究部」のサークル名が掲示されている。

 壁にずらっと並んだ本棚には、コミュニケーションというか心理学や精神医学の本が詰め込まれている。

 問題は、その上。

 

『……いるな』

 

 璃南は、パイプ椅子に腰を下ろす風を装って、その大型の本棚の上を見やる。

 

 黒々というか、あらゆる色が混じり合って、暗い表現しようのない色に染まっている、そんな見た目。

 やせこけた人間を小型にし、悪夢めいた歪め方をした、小鬼というに相応しい存在。

 それが、本棚の上、ごみ箱の影などにちらほら見える。

 

『餓鬼か……さて、ここにいるのが何よりの証拠か……』

 

 璃南はあえて視線を外す。

 今騒ぎを起こす訳には、いかないのだ。