「ほいっ!! 今年度最初の事件解決の、功労者にプレゼント!!」
翌々日。
流石に校長と教諭の一人が殺人と殺人ほう助で逮捕されたという事件のせいで、あの翌日の学校は新年度早々休校になった。
なんとか生徒たちには表向きを取り繕った翌々日、前と同じの文化部部室棟の一角。
オカルト研究部部室に、オカ研の四人は集まっていた。
前と同様、上座に部長の黒猫礼司、隣の上座に副部長の熊野御堂紗羅。
そして、直角に設置された長机に、尾澤千恵理と、大道誠弥が並んで座った。
そして、千恵理が、誠弥に小さな紙袋を渡したのだった。
「え? なに? くれるの? 何これ?」
誠弥はきょとんとしていたが、隣に座った千恵理のにやにや顔に負けてその袋の中身を見た。
中に入っていたのは、小指ほどの長さの、白い三日月状のもの。
片方の端にチェーンが付けられ、ペンダントに加工されている。
「龍神の牙だよ。うちの大おじいちゃんの牙をお守りに加工したんだ。誠弥くんが悪いものにもいいものにも影響を受けるって聞かせたら、うちの大おじいちゃんが、悪いものから心身を護れるようにって」
千恵理にしゃらりと説明され、誠弥は目を見開いた。
「え? いいの? 貴重なものなんじゃ」
「まー、世間的には貴重かもだけど、大おじいちゃんにとっては、抜けた歯だからさ。それで貴重な人材を護れるなら安いもんだって言ってた」
誠弥は、いそいそとペンダントを首から下げてみた。
「あ……なんか、体の芯っていうか……が、じんわりあったかいような」
適温の温泉にでも浸かったかのような、快いぬくもりが、誠弥の全身を包んだ。
冷え性で、体がだるいことが多かった誠弥だが、妙に気力体力が充実した感じだ。
今なら、短距離走でも長距離走でも、自己ベストが叩き出せそうである。
「これをつけてさえいれば、悪霊なんかの悪い気に当てられて、生命力が削られるってことはないはずだよ。体もちょっと丈夫になるはずってさ」
千恵理が説明すると、誠弥は感動の面持ちで微笑んだ。
「ありがとう!! よかった、前のあの時、気分悪くて倒れそうでさ……」
「霊感の感度はそのままだけど、悪い影響からは護られるから。ただし、自分一人で変なのに近付いたら危険なのは変わらないから、そこは気を付けてね?」
千恵理の説明を受け、やっぱり自分は戦闘向きではないんだなと、改めて思い直す誠弥であった。
しかし、今はそれが取り立てて怖いとは思わなくなっている。
何故なら。
「やあ、尾澤さん!! この僕、可愛い猫又にプレゼントはないのかなっ!?」
輝く白い歯を見せながら、礼司がさりげなくねだれば。
「部長。下級生にさりげなくものをねだるのはやめて下さい。プライドはないんですか。そもそも、しょっちゅう猫になっている部長が、どこにアクセなんか着けるんですか」
情け容赦なく、紗羅が突っ込む。
このオカ研に誠弥が入って、大きく変わったこと。
それは、当たり前のように理解してくれる人間と、人間でないものがいるということだ。
以前は親にも理解されないことがあったこの霊感だが、今では厭わしいものとは思わない。
だって、あの時、「彼女」に、確かに自分の言葉は届いたのだ。
恐らく、この鋭すぎる霊感のお陰で。
「そういえば、平坂先生はどうしたんだろう。あの、警察に任意同行したのを最後に見かけてないんだが……?」
礼司が怪訝そうに首をひねる。
まさか、と小さく呟くと、
「大丈夫ですよ。ちゃんとその日のうちに帰って来れたんだそうですけれども、事件が事件でしょう? 職員が全員会議会議で、なかなか部活に顔を出せそうにないんだそうです」
紗羅があっさりと説明する。
「む、なんで君が部長の僕も知らない情報を知ってるんだ!!」
「部長が、自分からは平坂先生の予定を確認しに行こうとしないからでしょう!! 面白くないなら、ちゃんとご自分で確認しに行って下さい!! あなたが部長!!!」
更なるツッコミを得て、礼司は外国の映画の俳優みたいに気取った仕草で肩をすくめた。
本人的にごまかしているつもりらしい。
「それよりもですね、今回の事件ですが。シャレにならなすぎて、文化祭に発行する部誌には掲載できそうもないですね……」
「オウチッ!! それがあったか!! うーん、そこそこ無難なネタを探さないとなぁ……」
紗羅と礼司のやり取りに、誠弥と千恵理は顔を見合わせた。
「部誌なんか、発行するんですか?」
誠弥が尋ねると、
「そうそう、毎年活動報告として、文化祭に合わせて部誌を発行するんだよ。某オカルト雑誌のパチモンみたいなやつ。だけどねえ」
礼司が大きくため息をついた。
「あー。なん十年も昔の話ならともかく、同じ年に起きた校内の殺人事件は生々しすぎますね……」
あまり空気を読む感じではない千恵理も、思わず遠い目をする。
「ええと……。じゃあ、オカ研としては、どんな活動をすればいいんですか?」
なにげなく誠弥が訊くと、礼司がかっこつけて長い脚を組みなおした。
「ふふふ、僕が去年から目を尾けていたのがある!! G町の廃病院だがね……いい感じだと……」
「ええっ、あそこですか!? やめましょうよ!! むっちゃ『寒い』んですけど、あそこ!!」
思わず声を跳ね上げた誠弥に、全員の目がきらりと底光りした。
「……大道くんがきっぱり『寒い』というからには、確実ですね、あそこは……!!」
「あー、あそこに入ってノイローゼっぽくなった人の話とか聞きましたよ、割と最近!!」
「ふふふ、僕の情報網も大したものだろう?」
どんどん話が進んでいくのを、誠弥はドン引きしながら見つめ。
でも、まあ、荒事は女の子たち任せだし、自分は写真でも撮影しとけばいいか……と、適当に落としどころを見つけたのだった。